紫式部日記に現れる紫式部の人間性にせまる

「源氏物語」の作者で中宮彰子の女房として宮仕えをした紫式部は、宮中での生活や人間関係をざっくばらんに日記に書いていました。日記にから読み取れる紫式部の人間性についてスポットをあてて記事に書いてみます。

目次

  1. 生家は文官の名門だった紫式部
  2. 皇后の家庭教師は紫式部
  3. 紫式部日記とは
  4. 紫式部の人間観察
  5. 宮中のイジメ事件を日記に記録
  6. 紫式部の人物像に関する考察

生家は文官の名門だった紫式部

困った人々

紫式部は越後守藤原為時と摂津守為信女(むすめ)の娘ですが、幼少期に母親を亡くしています。
紫式部の家柄は先祖代々三条右大臣や中納言を務める名家で、幼少のころより漢文を読みこなし、六歌仙のひとりに数えられるほど和歌にも明るく女性に求められる能力以上の文才を持っていたいたそうです。その容姿は美しく未亡人となっても貴族の男性から美貌を褒められたりたびたび求婚されていました。

皇后の家庭教師は紫式部

紫式部は藤原道長の娘で一条天皇の中宮彰子に仕えます。
仕事内容は中宮彰子の身の回りの世話や家庭教師です。同じ立場として宮仕えをしていた定子の女房・清少納言とはライバル関係であったことはみなさんも知るところだと思います。
紫式部日記には中宮彰子の女房として出仕していた時のことが書かれています。
中宮彰子は一条天皇の世継ぎを産み、その父親の藤原道長は摂政・関白として摂関政治を行うことになります。

紫式部日記とは

紫式部日記は紫式部が1008年~1010年までの約1年半の出来事を書き綴った日記で、中宮彰子の皇子出産やその祝賀、貴族の人間関係などを活き活きと描写している日記です。
この日記では紫式部の思い出や宮中の生活の愚痴、偏見、関係者の批評などが書かれていて、源氏物語の作者が書いたものとは思えないような生活感丸出しの日記を綴っています。

紫式部の人間観察

日記中には紫式部の周りにいた先輩や後輩、ライバル組織の女官の名前や仕事で訪れた貴族の男性の名前が登場します。その中でも後輩の「和泉式部」と先輩の「赤染衛門」、ライバルの「清少納言」に関する人物評をしています。一般的にこの人物評をしている部分は消息文と呼ばれていて、紫式部が同僚に手紙として送ったものだと考えられています。当時の女官たちは愚痴や自分の考えなどを口にするとすぐに噂が広がってしまうため、頻繁に文通を行ってコミュニケーションをとっていたようです。以下より日記中の人物評の部分を現代語訳を参考にして、私なりに分かりやすく咀嚼した文章を書いていきます。

日記中の「和泉式部」の人物評

紫式部は日記中で後輩である「和泉式部」のことをけなしている文章を残しています。しかも、厳しい意見の後は必ずフォローするフレーズを入れて、印象が悪くならないように気を遣っている形跡も見られます。さて、紫式部の目に「和泉式部」はこのように映っていたようです。

和泉式部と私(紫式部)は親しい仲です。結構、文通をしていました。
和泉式部はすごくおしゃれな手紙を書くし、歌にも趣が現れるのでさりげない言葉の美しさが目にとまります。でも、和泉式部は男癖がわるいのでそれは感心できません。
おしゃれな歌を詠むのだけれど、古い歌に関する知識や理論においてはあまりわかっていなさそうなので、本物の歌人とは言えないと思います。とにかく口まかせに歌を詠んでいるようなのですが、言葉自体が美しいので素晴らしく聞こえるけど、私が恥かしく思うような立派な歌人ではないということですね。
以上のような内容です。

日記中の「清少納言」の人物評

ライバルだった清少納言の人物評は目も当てられないほどの酷評です。その発端になったのが、清少納言が枕草子の中で紫式部の夫を馬鹿にしている記述です。
「御嶽参りは質素な恰好で行くのが当たり前なのに、宣孝(紫式部の夫)はド派手な着物で行くなんて、みんな呆れていたわ」。「歌の読み合わせで宣孝(紫式部の夫)の番になったとき、歌が思いつかずに冷や汗ダラダラ、あーなんて情けない男性でしょう」。と明らかに笑いものにしている記述が気に入らなかったのでしょう。紫式部は清少納言に対する恨みや対抗心は尋常なものではなかったと思います。さて、紫式部の目に「清少納言」はこのように映っていたようです。

「清少納言」は偉そうに定子に仕えていた人です。頭よさそうなフリして漢字を書きまくっていたけど、よく見たら全然違うところも多いんですよ?知ってました?
私は漢字の「一」もまともに書けないフリをしたり、漢字がよめないフリをしてあえて男性に屏風に書いている漢字を「なんて読むんですか?」って聞いてみたりしているのに、清少納言は「あっ、私わかりますよー」って得意気にしているのを見ると腹立たしく思います。こういう人は自分は特別って思っているかもしれないけれど、こんなふうに思う人に限って偽の教養しか持ち合わせていないんですよねー。それに、いつも気取っていて、あまり面白くない場面でも風流な趣を意識して見逃さないようにしています。あんな薄っぺらい態度をとるような人がいい人生を送れるはすがあるとは思えません。
とこのように蔑んでいます。

宮中のイジメ事件を日記に記録

現代でも他人の悪口をAさんがBさんに「○○さんってこーだよね?」という言葉に対して、Bさんが「そーだよね」と同調して返答するとBさんはただ返答しただけなので、Aさんが悪者になってしまいますが、紫式部が生きていた時代にもこのようなことが頻繁にあったようです。
紫式部は自分は「首謀者ではない」という体裁で、ウキウキ気分でイジメに参加したことを日記に残しています。

豊明節会という行事が行なわれていた時のこと。この行事では、貴族から出された「五節の舞姫」達が、「五節の舞」を踊ることが慣例となっていました。その世話役として演者の着付けや髪のセットを担当していた「左京馬」という女性を控室を覗き見した貴族が見つけていい広めたことから始まります。「左京馬」という女性はもともと天皇のお妃様に仕えていた一流のキャリアウーマンだったわけですが、結婚して宮廷を離れやむを得ず働いた先でかつての職場を訪れた際に元同僚たちに目撃されてしまったという訳です。
紫式部をはじめとした女官たちは、かつて「左京馬」の顔色をうかがって仕事をしていかなければならなかったので、ここぞとばかりに悪戯を仕掛けます。
「左京馬」へ蓬莱山の絵を描いた扇と童女向けの髪飾りを贈って嫌がらせをしたのでした。しかし、
「左京馬」はこの贈りものをしたのが中宮彰子がしたものと勘違いをし、急いで高価な品物を手配してお返しをしました。
紫式部は日記中で「冗談のつもりだったのにマジメにお返しをするとはお気の毒」と書いています。

紫式部の人物像に関する考察

紫式部は差し障りなく自分の意見を発言したり、上司や同僚の機嫌をとりながら宮中での振る舞いに気を付ける反面、日記や手紙に悪口を書いたり面白いと思った出来事を記録して楽しんでいた形跡が見られます。また、「自分たちの組織が男性から好かれないのは私たちが貞操を固く守っているからで、女性としての質は我々の方が上よ」という記述を残していることから、プライドの高い女性だったとも考えられます。イジメに加担したときには自分はあたかも第三者ですと振る舞っていたり、酷評をしつつもフォローをして相手の気分を害することがないようにしているので、世渡りのうまい女性だったようです。
素晴らしい和歌をこの世に残し、日本古典の名著「源氏物語」を書いた紫式部は噂好きで、同僚と他愛もない会話を楽しむごく一般的な女性だったのではないでしょうか?

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