花による死者供養の歴史と、それに関する様々な文化

花による死者供養の歴史と、それに関する様々な文化

日本も含めてほとんどの国や民族では、古くから死者供養のために花や植物が用いられてきました。そして中世〜近現代の日本で行われた「花や植物による死者供養」の記憶は、時として方言や古い遊び歌などに現れることもあります。

2019-09-25

はじめに

葬儀

世界のほとんどの国や民俗では、死者への供養には「花」がつきものです。
そもそも死者への哀悼に花を使う歴史は、既に約35万年ほど前のネアンデルタール人に始まるともいわれています。
古代文明の時代になると、こうした死者供養文化はよりはっきりした形になり、古代エジプトの王ツタンカーメンの墓からも彼に捧げられた花が出土しています。

日本での「花による死者供養」の歴史と民俗

また、あくまで神話ですが『日本書紀』にも、「ある本には」という断り書きがありますが、原初の女神イザナミの死を悼むために人々が花を彼女の墓に捧げているというくだりがあります。
こうしたことからも、「花による死者供養」には非常に古い歴史があることがうかがえますが、今回は、中世〜近現代の日本を中心に、花による死者供養文化とそれに関連する様々な民俗について、書いていこうと思います。

狭義の「花」以外も、死者供養に使われた

ところで、「花」による死者供養と書きましたが、ここでの「花」は、狭義の花だけでなく、場合によってはいわゆる観賞用の花がない植物も含みます。
なぜなら、中世日本の上流層での「花による死者供養」の習俗は、むしろ常緑樹の小枝を仏前に供えることが中心であった、といっても過言ではないからです。

平安貴族とシキミの「花束」

平安時代中期に書かれた『枕草子』には、既に貴族の間で仏事の際、仏前に常緑樹の一種「シキミ(樒)」を供えるしきたりがあったことがわかるくだりがあります。
もっともこの場面は、当時の上流層の人々に流行した寺院参籠の場面であり、正確には必ずしも死者を供養するための仏事ではありませんが、それでも当時の平安京(現在の京都)の高位の人々が、仏前にシキミを供えて祈るしきたりを持っていたことは重要です。

実際、現代でも関西圏の葬儀を始めとする死者供養儀礼では、特に東日本に比べるとシキミなど常緑樹の小枝を多く使う傾向があります。
いわゆる「花輪」と並び、その花輪と同じような意味合いを持つ「樒筒」を喪家に贈ったりすることもあるそうです。

幻の死者供養法「墓松」

死者供養に使われた(使われている)常緑樹としては、シキミの他に「松」が有名です。
平安時代末期には、墓石の代わりに(当時は、支配者層の人々といえど墓石を建てる習慣はありませんでした)「墓松」と呼ばれる松の木を植える風習があったことが、当時の記録からわかっています。

この墓松のしきたりは、江戸時代に入って庶民層にまで墓石が普及してきたことにより、「現役の供養儀礼」としては廃れました。
ただ、古代や中世の有名な伝説上の人物の墓(とされる場所)には、恐らく近世以降に墓松が植えられることで、「ここがその人物の墓である」という目印にされたケースもあったようです。

様々な種類の常緑樹が死者に捧げられた

更にいうと、墓松は明治期に入っても、幾つかの地域の子どもの日常の会話での決まり文句や遊び歌に登場していたことが報告されています。
そうした決まり文句や遊び歌などの中には、墓松だけでなく「墓に植えられた杉」に言及したものもあります。
死者供養と常緑樹の密接な関係をうかがわせます。

近世により盛んになった、花による死者供養

このように、中世〜近世初頭には死者供養には主に常緑樹が使われたようです。
江戸時代に入って武力による戦いが終わり、また庶民層が力を付けてくると、死者供養に狭義の花が使われるようになってきました。

勿論、実際には最初に述べたように花による死者供養も古くから行われており、例えばいわゆる野辺の送りの際、葬儀参列者が埋葬をする場まで、棺を担ぐ人々に付き従って歩く際に花を手に持ったり頭に飾ったりし、途中の道端に挿したり埋葬直後の墓に立てたりすることが、遅くとも平安期後半には行われていたようだということも、指摘しておきます。

特に都市文明の発達により、花を「商品」として売り買いする場、つまり「市(いち)」ができたということも、花による死者供養文化を庶民層の間でも興隆させた大きな理由の一つでしょう。

季節限定の供養用商品フェア「盆市」

都市部やそれに近い地域の庶民は、身近な野生の花が少ないことが多々あることもあり、「商品としての花」や、それを買うことのできる市には大いに助けられたことでしょう。
そして、こうした死者供養用の花を含めた様々な供養用商品を専門に扱う期間限定の市が、盆の時期の直前に開かれるようになり、これを「盆市」あるいは「草市」「花市」などと呼びました。

「盆市」で供養用品を買うことの特別な名前

興味深いことに、こうした「盆市」は、死者の魂がこの世に帰ってくる場である、とも信じられていたそうです。
実際現在の青森県八戸市や、鹿児島県の複数の地域などでは、「盆市」で故人の供養に必要なものを買うことを、「仏様迎え」「ショロドン(精霊殿か)迎え」などの「死者の魂を迎えに行く」という意味合いを持つ名で呼んでいました。

「死者と買い物」をめぐる様々な民間信仰

そういえば死者と「買い物」の関係性には、実は民俗的にみれば大変興味深いものがあります。
筆者は以前、西日本の幾つかの地域には、往時「人の死」を婉曲に示す言葉として「広島へ(特に何らかの買い物をしに)行く」という表現があったことや、静岡県の一部に、盆にこの世に戻ってきた先祖の魂が、「この世に滞在している間、神田に買い物に行く」という俗信があったことについての記事を書いたことがあります。
その中で、「買い物に出かける時期」こそ違うがどちらも「死者が生者と同じように、都市や繁華街に買い物に行く」とする表現が使われる点は興味深いと指摘しました。

「盆市」での買い物に、「戻ってきた死者の魂をお迎えすること」と同じ意味合いを見出すことは、「買い物に行く」のが死者と生者という違いはあるものの、「死者がこの世の繁華街で買い物をする」という俗信と、何らかの関係がありそうです。

死者供養用の花を入手する信仰上の意味

なお、都市部やそれに準ずる地域の人々が「盆市」で供養用の花を買うこと自体がそもそも、農山村部の人々が野山で死者に供える花を摘んでくることを、信仰上のルーツとするらしい(供養用の花を手に入れるということに加え、そうした花を摘む山は「聖地」であるとも信じられ、その花に宿った先祖の魂がこの世にやってくると考えられていた可能性もあるそうです)という指摘もされています。
この指摘を念頭に置くと、「盆市」が開かれている間だけ、その市が建つ場所が一時的な「聖地」となりそこに先祖の魂がやってくる、という信仰が存在した可能性もあります。

そしてそうした信仰があったと思われる地域が、北東北や南九州など、江戸や京都・大阪から遠く離れ、前近代には「日本」の外れとされた地域(更にいえばこれらの地域は、東日本・西日本を問わず「死者が買い物をする」という言い回しのあった地域とも、重なっていません)に集中しているのも、興味深い点です。

おわりに

葬儀

いかがでしたか。
ことわざや慣用句、民話や民謡、あるいは様々な方言などの中にも、過去の時代の死者供養のしきたりを伝えるものが、今回言及したもの以外にも案外あるかも知れないですね。

参考文献

徳島康之、鈴木昭監修『亡き人への花 葬儀・法要・墓参の花ガイド』三水社、1997
鯨井千佐登『境界紀行 近世日本の生活文化と権力』勁草書房、2000
堀一郎『民間信仰』岩波書店、2005
「心に残る家族葬」ホームページ

コラムの中の、筆者が別名で執筆した記事「地域で異なる「人の死」に関連した様々な言い回しや独特な表現とその共通点」

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