京都の方言「京ことば」と「もうひとつの京都の方言」たち

「京都の方言=京ことば」だと思っていませんか?南北に長い京都府には、丹後・丹波・山城の「もうひとつの京都」にも方言があります。おなじみの「京ことば」をはじめ「もうひとつの京都の方言」をご紹介しましょう。

目次

  1. 京都の方言・基礎知識「もうひとつの京都」
  2. 京都の方言 おなじみの「京ことば」
  3. もうひとつの京都の方言
  4. 海の京都(丹後)地域の方言
  5. 森の京都(丹波)地域の方言
  6. お茶の京都(山城)地域の方言
  7. 方言もおもてなしの一部

京都の方言・基礎知識「もうひとつの京都」

京都

最近「もうひとつの京都」という言葉を見聞きされたことはありませんか?
今、京都では、世界遺産登録を受ける寺社仏閣が集中する、いわゆる「古都京都」の「京都市」だけではなく、京都府内の各エリアの「観光都市・京都」の魅力を発信する「観光キャンペーン」が展開されています。
それが、「もうひとつの京都、行こう。」キャンペーンです。

この「もうひとつの京都、行こう。」では、京都市以外の府内の各エリアの特色にスポットを当てて観光誘客と地域の活性化をはかるろうと、それぞれの地域を「海の京都」「森の京都」「お茶の京都」と名付け、魅力あるキャンペーンが打ち出されています。

京都の方言の基礎知識として、この「もうひとつの京都」エリアの特徴をご紹介しておきましょう。

海の京都~丹後~

「京都には海がない」と思っている方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか?

確かに、京都市は、内陸で海には接していません。
でも、上の京都府全図を見ていただくとおわかりのように、京丹後市、伊根町、宮津市、舞鶴市は日本海に面しています。
京都府の北部地域にあたるこのあたりは、「丹後」と呼ばれるエリアに属しています。

日本三景のひとつ、「天橋立」は、この丹後の「宮津」にあります。
また、NHKの朝ドラの舞台や「釣りバカ」のロケ地としても有名になった「舟屋群」のある「伊根」や旧日本海軍の軍港で、戦後、シベリアや満州から引き揚げてくる息子を待ち続けた「岸壁の母」で有名な「舞鶴」など、海にまつわる見どころや歴史、文化を育んできました。
この界隈は「海の京都」と名付けられています。

森の京都~丹波~

京都のほぼ中央部分は、丹波山地と言われる山林に覆われた地域です。
この京都府の中部地域は、日本の原風景が残る「美山かやぶきの里」や貴重な原生林の森などの豊かな自然が数多く残るエリアで、文字通り「森の京都」と名付けられています。

こうした豊かな自然は、豊かな森の恵みをもたらせてくれることにつながり、古くから林業、農業が盛んな地域でした。現在も農作物の生産地としての役割をもっています。

京都市中心部、つまり、都との距離も比較的近く、都という最大の消費地をすぐそばに抱える生産地としてブランド力のある農作物や都の造営のための木材の産出地としても大いに栄え、自然に即した豊かな暮らしが残る地域でもあります。

お茶の京都~山城~

日本を代表するお茶の銘柄「宇治茶」。その最高品質の緑茶を生産する京都府南部地域「山城」。

お茶の生産地としての長い歴史と一面に広がる茶畑の圧巻の景観を誇るこの界隈は、「お茶の京都」と名付けられています。

山城地域は、宇治茶をテーマに、お茶生産の美しい景観の維持や茶業産業の振興、そしてお茶の文化の発信をすすめているところです。

「海の京都」「森の京都」「お茶の京都」の3つの「もうひとつの京都」に、日本全国、否、世界にその名が通っている「古都京都」の京都市エリアを加えて、「京都」は実に多彩な表情を持ち、地域ごとに独自の文化を形成しています。
京都の方言は、こうした地域の特性を色濃く反映する多様性をもつ方言になっています。

京都の方言 おなじみの「京ことば」

京都の方言といえば、誰しもが最初に思い浮かべるのが「京ことば」です。
「京ことば」は、平安の昔から明治維新まで、日本の標準語だったといっても過言ではないという説もあります。この期間というのは、基本的に「日本の首都=都」だったわけですから、それももっともなことなのかもしれませんね。

「京ことば」は、内裏(御所)やその周辺のお公家さんたちが使っていた「御所ことば」と町衆が使っていた「町方ことば」が混ざり合い、長い時をかけて少しずつ変化しながら今に伝わっています。

最近では、完全無欠な「京ことば」を日常的に話す人は、かなりの年配の世代です。
言葉というものは、生きものですから時代や世相に応じて変化するのは当然のことですし、メディアが発達した現代では、幼児期には、テレビ番組などを通して、いわゆる標準語を聞いて言葉を覚えるということも少なくありません。

「京ことば」も、そんな時代の流れに抗うことは難しく、純粋な「京ことば」は、特別な人や場合意外は、使わなくなってきています。
その代表が花街の芸舞妓さんや置屋のおかあさんをはじめとする花街で仕事をする方々、あるいは、接客業の方々に限られてきています。
ただ、その特徴や会話術は、やや曖昧に変化した京ことばを話す人々にも、確実に引き継がれていっていると言えるのが「京ことば」のおもしろいところかもしれません。

京ことばの特長

京ことばの大きな特徴に「母音をのばす」ということがあります。
「目」は「め」ではなく「めぇ」と発音します。
「花粉が飛んでるんやろか・・・めぇ(目)が痒いわぁ」といった感じです。
「歯」は「はぁ」「手」は「てぇ」「字」は「じぃ」。「きれいなじぃ(字)書かはるねぇ」です。
イントネーションは、最初が高い音ではなく、母音の方が高くなります。

「御所ことば」の影響を残しているのか、敬語のような表現が多いのも特徴のひとつです。
たとえば、単語の前に「お」を付け、最後に敬称である「さん」とつける表現が非常に多いです。
「お月さん」「お寺さん」「お日さん」(これは「おひぃさん」と発音します)「お神輿さん」
「おあげさん(油揚げ)」「お豆さん」「おくどさん(かまど)」「飴さん」などなど・・・。

そして、敬語のような表現ということで、わかりやすい例を挙げると、
「きれいなお月さんが出たはるえ」
これを標準語にすると「きれいな月が出ていらっしゃるよ」ということになります。
標準語の場合、月に敬語は使わず「月が出ている」となりますが、京ことばでは「出たはる」です。

京都では、この敬語表現である「~~はる」を親子、兄弟など家族間でも使うことが多く驚かれることがあります。
自分の子どもに対してでも「テレビ見て、わろて(笑って)はる」「ごはん、食べてはる」
これも標準語変換すると「テレビを見て、笑ってらっしゃる」「ごはんを召し上がっている」ということになるわけですから、確かに「おかしい」と思われるでしょうが、「京ことば」ではこれが日常なのです。

使い方で変わる「京ことば」の意味

「京ことば」には、「批評することば」と「ほめことば」が表裏一体になっていることがあります。
たとえば「エライ」という言葉がわかりやすいかと思います。
「エライお人どす」偉い人、尊敬できる人、地位のある人という意味で使いますが、同じ言葉を批判的な意味で使うこともあります。威光を傘に無理難題を押しつけてきたり、態度が不遜だったりする人のことを皮肉を込めて「エライお人どす」と言うこともあります。

同じように「キバル」という言葉もよく似た使い方をする言葉です。
「キバル=気張る」とは、力を込めるとか頑張る、努力するという意味の「京ことば」です。
仕事をしている人、作業中の人などに激励の意味を込めて「よう気張らはりますなあ」とか「お気張りやす」と言いますが、「もう少し頑張れば?」という意味を込めて使うこともあります。
お店などで、「もうちょっと、気張ってぇな」と迫るというのは、「値引きして」「おまけして」という意味です。

これらの使い分けは、よく聞いていると、誉め言葉なのか、皮肉をこめた批評なのかはおのずと伝わると思いますので、もし、京都でこういう場面に遭遇したときは、傾聴必須です。

同音異義語的な「京ことば」

「京ことば」のなかには、同じ言葉で違う意味を持つ、同音異義語的なことばもたくさんあります。
先ほどの「エライ」。ほめことばと批判することばとしての使い分けとは別に、全く違う意味で使うことのある言葉です。

たとえば、「観光シーズンで、嵐山は、エライ人どしたわ」標準語変換すると「観光シーズンなので、嵐山は、たくさんの人出でしたよ」ということになります。
この場合は「偉い(great)」ではなく「たくさんの(many)」という意味で使う「エライ」です。

さらに、「大変(very)」という意味で使うこともあります。
「エライ目(めぇ)におうた」=「大変な目にあった」
「エライとこに来てしもた」=「大変なところ(場所や場面)に来あわせてしまった」
「エライことしてしもた」=「大変なことをしてしまった」 といった具合です。

独特の会話術の裏側には・・・

敬語表現の「~~はる」や誉め言葉と批評語の一体化など、「京ことば」には、独特の会話術があります。
「~~はる」という敬語表現は、公家の人たちが家族に対しても敬語で話したという王朝文化の名残であると同時に、いわゆる「角を立てない」ことへの一助になっているといえます。

京都では、この「角を立てない」ということが世渡りの必須条件となっています。そのおかけで、京都人気質が「腹黒い」だとか「本音と建て前が違いすぎる」だとか「本心が見えない」などという非難につながるのだろうと思うのですが、これには、歴史的な背景があるのです。

長く都であり続けた京都ですが、たとえば、江戸時代のように300年の長きにわたって、ずーっと同じ「徳川政権」の治世というわけではありませんでした。
その時々によって、権力者が移り変わってきたのです。
そのなかで、どこにも角が立たないように言葉は、和やかに・・でも、言いたい本音は、ニュアンスでちくりと言っておこうという京都独自の会話術が発達したと言われています。

もうひとつの京都の方言

「古都京都」で、世の中の動きに応じた「京ことば」が発達していったように、「もうひとつの京都」つまり、京都府域の各地でも、その土地の生活、文化に応じた京都の方言ができあがっていきました。

海の京都(丹後)地域の方言

まず「海の京都」エリア、京都府北部地域の方言は「丹後弁」と言われる言葉が中心となります。
とはいえ、北端の地域と舞鶴などとでは、若干異なるところもあります。
特徴としては、なぜか「名古屋弁っぽい」といわれるところ。
「きゃぁ きゃー」と発音することが多いのが、そういわれる所以のようです。
そして、「~~ですね」の「ね」という終助詞は、「ねぇ~え」。これが最も特徴的で、丹後地域の出身者かどうかは、この終助詞が出るかどうかでわかったりします。

単語そのものが標準語とも京ことばとも異なるものが多いのも特徴といえます。

「あだける」=「落ちる」
「あんばよう」=「良い具合に」(塩梅よくが変形したもの)
「うみゃー」=「おいしい」
「おうどうな」=「横着な」
「ぎごわ」=「頑固」
「こばる」=「我慢する」
「じゃりゃあ」=「いい加減な」
「でほうでぃや~」=「でたらめ」(出放題が変形したもの)
「ほいさきゃあで」=「だから なので ですから」(接続詞として使う)

同じ京都人でも、フル装備の丹後弁は、もはや外国語的ですらあります。
「今日は、ひでぇーことはたがめがあだけて~え」
と言われても、今日起きた何かを伝えてくれているのは予測できても、具体的な内容はさっぱり・・
「今日は、ひどい雷が落ちてね」という意味だそうです。

森の京都(丹波)地域の方言

丹波という地名は、かなり広域を指す地名で、京都府と接する兵庫県北部も「丹波」です。
そうしたところから、「森の京都」エリアの京都府中部地域は、「口丹波」と分類されています。

この地域の方言の典型的な訛りは、ザ行とダ行を混同してすべてダ行の発音をするところにあります。「ざじずぜぞ」と発音しているつもりでも「だぢづでど」になってしまい「象さん」は「どうさん」「雑巾」は「どうきん」「全然」は「でんでん」となります。

「海の京都」エリアよりは、京都の中心部に近く、昔から都との行き来もさかんだったところから、かなり「京ことば」に感化されているところはありますが、やはり、こちらでも独特の単語がいろいろあります。

「せんど」=「何度も」
「ちょける」=「ふざける」
「けなりい」=「うらやましい」
「べべちゃい」=「ひらべったい」
「へんねし」=「ひねくれる」「嫉妬する」
「せんぐり」=「ひとつずつ順番に」「次々に」
「ひっつく」=「くっつく」
「やつす」=「化粧する 着飾る」
「はしこい」=「敏捷」
「よさり」=「宵 夜」
「あけ」=「朝」

「せんぐりせんぐり、新しい服着て、やつしてはるの見てると、けなりいわ」
次々に新しい服を着て、着飾っているのを見ていると羨ましいというのを「森の京都」の方言で言うとこういう感じになります。

お茶の京都(山城)地域の方言

「お茶の京都」京都府南部、山城地域の方言は、隣接する三重県の伊賀や伊勢地方や奈良の方言の影響を色濃くうけています。
これは、都が奈良の平城京から京都の平安京に遷都されたことの影響もあるようです。

海の京都の丹後地域での特徴的な終助詞と同様に、山城地域では「~~やん」を終助詞として使うことが多いようですが、丹後地域ほど特徴的ではありません。

変わったところでは、「だから、言ったでしょ?」というような場合の「だから」や「そうですから」というのを「そうやはけ」とか「そうやさけ」「そやさかい」と言います。

「そうやはけ、きんの(昨日)のうち(間)に用意しとけて言うたやろ!」
忘れ物をしたときなどに、山城の方言でたしなめられると、こんな感じになります。

「しらんどくに」=「知らずに 知らないうちに」
「せんどくに」=「しないままに」
「なんして」=「何をして」
「あんじょう」=「上手に」
「けつまずく」=「躓く」

ご多分にもれず、山城地域でも、こうした純粋な方言を話す世代は、かなりの年配の方々になってきているようです。

方言もおもてなしの一部

まったく異なるようで、それでいてどこか共通点がありそうにも感じる「もうひとつの京都」の方言たち。

古都京都で、「京ことば」に親しんだ後は、ぜひ「もうひとつの京都」の方言たちに会いに、でかけてみてください。

きっと今までとは違った京都の音と表情に出会っていただけると思います。

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