実は多くの種類があった、女性用の袴(平安朝から近現代まで)

一般に、「 袴」といえば男性用であるというイメージがあるため、女性用の袴にはどんな種類があった(ある)のかについては、意外と知られていません。しかし実際には、平安朝から近現代に至るまで、様々な種類の女性用の袴があったのでした。

目次

  1. はじめに
  2. 実は女性も様々な種類の袴を着用してきた
  3. 平安の貴婦人たちのはいた緋袴
  4. 突然誕生した貴婦人たちの袴
  5. 寝殿造が女性の袴姿を生んだという説
  6. 平安の貴婦人たちの袴の種類
  7. 女性の袴は完全に廃れてはいなかった
  8. 宮中の女性や巫女は袴をはき続けた
  9. 宮中の女性の袴姿は寒さ対策でない
  10. 切袴を取り入れた巫女装束
  11. 近代の宮中の女性の袴の種類
  12. 女子学生の卒業式の礼装になった行灯袴

はじめに

一般に、「袴」といえば男性の着用するもの、というイメージがあります。
しかし、実際には限定された時代や場面ではありますが、女性も袴を着用してきた(している)歴史もあります。そして、女性用の袴にも、現代では時代劇などでない限り着用されないようなものも含め、様々な種類があります。

実は女性も様々な種類の袴を着用してきた

女性が袴を着用する習俗は、平安時代の貴婦人に始まります。以来、現代に至るまで、女性が袴をはく機会は限られてはいましたが、ある時には特定の職業の制服として、ある時には礼装として、またある時には武道用のユニフォームとして、その他様々な場面で様々な種類の女性用の袴は着用されてきました。

平安の貴婦人たちのはいた緋袴

先に平安時代の貴婦人たちが、日本で最初に袴を着用した女性だと指摘しました。
実際、例えば小倉百人一首かるたの絵札の女性歌人像をよく見ると、いわゆる十二単スタイルの下半身は、足元まで隠れるような長い袴をはいていることがわかります。鮮やかな赤系統の色が好まれ、「緋袴(「ひのはかま」または「ひばかま」)」と呼ばれました。

突然誕生した貴婦人たちの袴

この時代の上流層の女性が突然長い袴をはくようになった理由については、様々な説があります。それらの説の一つには、どこまで信憑性があるのかはわかりかねますが、当時の要人たちが住んだ邸宅の構造と関係があるという説もあります。

寝殿造が女性の袴姿を生んだという説

当時の上流の人々の邸宅は、「寝殿造り」と呼ばれるものであり、板敷きで天井が高く、冬は底冷えがするものであったので、いわば防寒のために女性が袴をはくようになった、という説です。
そして貴人たちの邸宅に畳が使われ始め、冬の底冷えが軽減されるようになったのとほぼ同時期に、女性の袴が廃れたとも指摘されています。

平安の貴婦人たちの袴の種類

さて、そうした時期に貴婦人たちがはいた袴には、一体どんな種類があったのでしょうか。

打袴(うちばかま)

晴れ着としての袴です。布地を「砧」で打ち光沢を出した袴で、より光沢が引き立つ紅や濃紫が好まれました。

生袴(きばかま)

日常用の袴です。打袴に対して、砧打ちしていないためこの呼び名があります。

張袴(はりばかま)

平安時代の後期以降に着用されたタイプです。生地を糊付けして張りを持たせた袴で、この頃廃れてきた打袴の後釜でした。

切袴(きりばかま)

歩行の便が考えられた、足が出るタイプの袴です。年少の女児や、貴人に仕える女性の中でも雑用などを行う若干身分の低い侍女が、こうした袴を着用しました。なお後述しますが、切袴は後世にリバイバルします。

女性の袴は完全に廃れてはいなかった

こうした複数の種類の袴が、平安の貴婦人たちに着用されていました。

ところで先に、上流の人々の邸宅に畳敷きの部屋が登場すると、冬の寒さが軽減されたこともあり、女性の袴着用は廃れた、と書きました。しかし実際には、一部の女性の間では、袴を着用する習慣が近代に入るまで続き、それが形を変え現代にも続いています。

宮中の女性や巫女は袴をはき続けた

そうした、後々まで袴をはいていた女性は、皇族の女性・皇族に仕える女性と巫女でした。

宮中の女性の袴姿は寒さ対策でない

まず、女性皇族と皇族に仕える女性(以下、「宮中女官」)には、後々まで袴を普段から着用する習慣が残りました。

ちなみに、現在一般的な種類の雛人形は、江戸時代後半〜末期頃の格好ですので、女雛や三人官女といった女性の人形を思い出して頂ければ、近代の直前の時期の女性皇族や宮中女官の盛装姿がどんな雰囲気であったのか、イメージできることでしょう。

一方、一般の公家や上流武家の女性や、公家及び上流武家に仕える女性は、遅くとも戦国時代〜安土桃山時代には改まった場面を除き、袴を着用する習慣を廃しています。
この違いの理由は不明ですが、女性皇族や宮中女官が袴をはき続けたのには、明らかに寒さ対策以外の文化的な理由があったと思われます。

雛人形

現在スタンダードな種類の雛人形の女性の人形がはいている袴は、幕末期に差し掛かった頃の宮中の女性の袴です。

切袴を取り入れた巫女装束

もう一系統の後々まで袴をはいていた女性は、神社に奉仕する巫女でした。現代の巫女装束に近いタイプの巫女装束は、江戸時代中期以降には既に確立していたようです。ここには、切袴が採用されました。

近代の宮中の女性の袴の種類

そして明治時代に入ると、女性皇族や宮中女官の間でも切袴がリバイバルしてきます。
その背景には、日本が近代に入ったことにより、皇后を始めとする女性皇族やお付きの女官たちも、いわゆる「公の場」に出ていくことが必要になったことがあります。様々な場所を訪問することも多く、歩行をよりスムーズにするためにも、切袴は便利でした。

なお、こうした新しい種類の宮中の女性の礼装は、戦後に入って女性にも神道の正規神職になる道が開かれた際、女性神職の正装にも応用されています。

また面白いことには、女性皇族や宮中女官が切袴を着用した際の履物には、袴と共生地の表生地のハイヒールがよく選ばれていました。

女子学生の卒業式の礼装になった行灯袴

近現代日本の女性と袴の関係といえば、女学生や女性教師などの袴姿(いわゆる「女学生スタイル」「はいからさんスタイル」などと俗に呼ばれています)を抜きにしては語れ

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