秋の季語・天の川と天の川を詠んだ俳句について

郊外や田舎で夜を迎えると、はっと息をのむほどのうつくしい天の川を見ることがあります。今回は、天の川や七夕伝説について概観するとともに、俳句の季語としての「天の川」、そして秋の季語・天の川を詠んだ俳句についてご紹介します!

目次

  1. 天の川とは
  2. 七夕伝説について
  3. 秋の季語・天の川について
  4. 荒海や…など季語・天の川を詠んだ俳句
  5. まとめ~秋の季語「天の川」と俳句の多様性

天の川とは

天の川とは、夜空に光の帯のように広がる大小の星々のかがやきです。
銀河、ともよばれます。
ちなみにこれを川と考えるのは東洋的なものの見方であり、西洋では乳とされてきました(そのためミルキーウエイと呼ばれます。)。

天の川は、古くから詩歌に詠まれてきましたが、とりわけ和歌においては七夕伝説との結びつきが深く、心情を詠む歌の背景に用いられてしました。しかし、景を詠む俳句においては少し扱われ方が異なります。

俳句における秋の季語・天の川について詳細は後述します。

七夕伝説について

本題に入る前に、天の川とふかく結びついた七夕伝説とは、どのようなものなのでしょう。
ここでは、各国に伝わる七夕伝説について簡単にご紹介します。

中国版

七夕伝説の発祥は中国です。そして、我々日本人にとってもっとも馴染みの深いのが中国版・七夕伝説でしょう。

織姫と結婚した彦星が、妻を愛しむあまり仕事を忘れたため、怒った天帝が二人を引き裂いてしまうというものです。しかし、悲しむ二人は仕事どころではなく、見かねた天帝は年に一度だけ二人が会うことを許したのでした。

日本版

じつは日本には独自の七夕伝説があります。

3人の娘をもつ男の前に現れた大蛇が、男の命か娘を嫁に差し出すよう要求し、末娘の織姫が志願して大蛇の嫁になります。その後、大蛇の首を切り落とすと、中からイケメン彦星が現れ、ふたりは結婚することに。

その後失踪した彦星を探し織姫は天にのぼりますが、ふたりの結婚に反対する彦星の父が邪魔をします。最終的に「月に一度なら」と彦星の父は折れたのですが、織姫が「年に一度」と聞き間違えた、というオチです。

その他版

ギリシャ版

ギリシャ神話版七夕伝説は、琴の名手・オルフェイスと森の妖精・エウリディケの悲恋物語です。

毒ヘビに噛まれ死んでしまったエウリディケを追って黄泉の国までゆき、エウリディケを蘇生させたオルフェイスでしたが、約束を破ったために再びエウリディケを黄泉の国に連れ去られてしまう、というものです。

フィンランド版

フィンランドの七夕伝説はズラミスとサラミという仲の良い夫婦の物語で、死後お互いに星になるのですが、さすがに遠すぎる…ということで二人は星屑を集めて橋を架けようとします。この橋がやがて天の川になった、というものです。

以上、各国の七夕伝説を駆け足でご紹介しました。直接俳句に結びつくものではありませんが、こうした背景を知ることは句作をする上でも大切なことだと考えられます。

秋の季語・天の川について

季語で用いられる天の川は、秋季に属しています。同じものを指す言葉として、銀河、銀漢、星河という季語も存在しています。

天の川というと夏をイメージする方もいるかもしれませんが、秋の季語となっています。
これは秋になり気温が下がって空気が澄んでくる季節が星空を見るのにちょうどよい季節であることや、秋という季節に見ると天の川の印象がひときわ強くなることなどが理由だと考えられます。

同様に「月」も秋の季語です。さらにいえば、七夕も7月7日という日付が一般化していますが、もともとこれも陰暦での日付なので秋の行事になっています。

すでに述べたように俳句は、和歌とは異なり、景を詠むものですので、多くは七夕伝説とは切り離し(付帯的に七夕伝説を引き摺ることはあったとしても)、天の川それ自体の美しさを視覚的に捉えることが主眼となります。

荒海や…など季語・天の川を詠んだ俳句

天の川

それでは、秋の季語「天の川」を用いた代表的な俳句にどのようなものがあるのかについて、以下で見てみたいと思います。

天の河星より上に見ゆるかな 白雄

「星より上に」と天の川を表現したこの俳句からは、天の川の微細な星の明かりが重なり合ってところを背景として、その手前に星のあるさまを詠みあげています。

そうはいっても、下五を「見ゆるかな」と結んでいることからも、中心に詠まれているのは星ではなく、やはり天の川です。この点、水の流れる河川に例えれば、星は川面に点在する岩のようでもあります。

漆黒の闇に浮かび上がる星空を、とても立体的に言い表していて、しかも簡潔にまとめられています。

荒海や佐渡によこたふ天河 芭蕉

芭蕉の句としても、天の川の句としても、あまりに有名なこの句は、荒れた海と静謐な天の川の対比が大きな特徴とみることができそうです。
その対比する一方の海については、「荒海や」とばっさりと説明を切り捨ててしまっており、余計な装飾はありません。

しかし、余計なことが言われていないからこそ、却って読み手のイメージする荒海には統一感が生じているように思われてなりません。

他方、「天河(天の川)」に関しては「佐渡によこたふ」という説明を付しています。
これにより、われわれは江戸期の芭蕉が、本州側の日本海沿岸である越後地に立ち、海を隔てて佐渡に対峙していることや、その日はよく晴れた秋晴れの日であり、日没後しだいに星空がうるさいほどにまたたくようになった様子までを感じることができます。

更け行くや水田の上の天の川 惟然

「更け行くや」ではじまるこの句は、いきなり読み手を深夜という時間軸に連れ去ります。
テレポーテーションのような鮮やかさで連れられた読み手の前に広がる、夜の闇にうかぶ水田。その空には満点の星、そして天の川が広がっているという光景です。

「水田の上の」とは、一見やや説明が過ぎた感じもありそうですが、田に張られた水が星空を映し出し、あたかもそれは畔に縁どられた窓のように天の川を映し出しています。

もちろん、田の畦とはいっても深夜という時間帯ですから、ほぼ闇の一部とみてよいのではないでしょうか。頭上にも眼下にも天の川が見え、星空に囲まれているような感覚すら覚えるような句です。

北国の庇は長し天の川 子規

明治期に「俳句」の祖となる正岡子規の句です。この句はこれまでのような直接的に天の川を詠みあげるのではなく、「北国の庇は長し」が上五・中七と続きます。

無論、天の川が空に見えている時間帯ですから、日没後のことでしょう。
夜、軒の下から見上げる庇は、黒々と闇に溶け込んでいるのではないでしょうか。とすると、ここでは見ているのは庇そのものというより、庇であるはずの闇です。

もし、室内の灯りをたよりに庇が見えていたと考えると、その分だけ並べた天の川がピンぼけになります。
だからここは闇に囲まれ庇の及ばないところに天の川を眺めていると考えられます。
(もうすこし見たいが、庇の闇が天の川を隠してしまっている。まことに北国の庇とは長いものだなぁ)というような感じが伝わってくるようです。

長生きの象を洗ひぬ天の川 桑原三郎

天の川の句としては、かなり異色なこの俳句。なにしろ出だしからして「長生きの象を洗ひぬ」です。

年老いた象ではなく、長生きの象というところに、年齢を重ねた象に対する作者の思いが滲んでいるようです。夜に象を洗うのが一般的なことなのか知りませんが、その象を洗う頭上には天の川が輝いている、という景色です。

象を洗うには、なにか専用のブラシがあるのでしょうか。そのゴシゴシという音や水の音まで聞こえてくるようです。と、同時に象をあくまで慈しむ作者が象に語りかける声の調子まで連想できてしまいそうです。

天の川のもと、象を洗う。

そのようなことは、広い宇宙でもここでしかやっていないことでしょう。
いや、ひょっとしたらどこか同じような星で同じような光景が繰り広げられているかもしれません。
とにかく、不思議な、それでいて強い印象を残す句と言えそうです。

まとめ~秋の季語「天の川」と俳句の多様性

天の川

今回は、俳句の季語「天の川」と天の川を詠んだ代表的な俳句についてご紹介しました。
「天の川」という古くから使い古された季語であっても、じつにさまざまな俳句が作れるものですよね。

白雄は「星より上」といい、
芭蕉は「佐渡によこたふ」といい、
惟然は「水田の上」といい、
子規は「北国の庇は長し」といい、
桑原三郎は「象を洗ひぬ」という。

ぜんぜん違うことを詠みあげているのに、同じように季語「天の川」が配されています。

作者はその秋の夜空、宇宙にかがやく天の川を全身で感じ取っています。その実感を17文字に封印した俳句が、読者の目に飛び込んでくるや、まさにその天の川が読者の脳裏に再現されるわけです。
なぜそんなことが起こるのか、といえば、それは季語のもつはたらきによるというほかありません。俳句は連想の文学と言われますが、その鍵を握るのは季語なのです。

俳句に親しんでいる人ほど、季語には敏感になります。その季語を目にしたとたん、条件反射のように詠み手の実感を捕らえ、自らの五官で感じるかのようにイメージすることができるのです。
こうした詠み手と読み手の繋がりこそ、俳句の醍醐味であり面白みであり、奥深さだと言えるのではないでしょうか。

これを機に、より異なった意匠による天の川の俳句を探したり、あるいは自ら作ってみたりするのも面白いと思います。

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