「○○家代々のお墓」は、実は往時の日本では必ずしも一般的でない

今の日本で一般的なタイプとされるお墓の一つは、「○○家代々の墓」というような様式です。しかしながら、実際には往時の日本では、こうしたタイプのお墓は必ずしも一般的でないものでした。お墓そのものを持たないしきたりの地域や宗教宗派もありました。

目次

  1. はじめに
  2. お墓参りの習慣が「無い」時代
  3. お墓以外の場所で死者供養が行われた
  4. 鎌倉時代以降、年末のお墓参りが始まった
  5. 庶民にも墓石・お墓参りが普及した近世
  6. 「先祖代々の墓」は近世後期以降に誕生した
  7. お墓そのものを持たない文化もあった
  8. お墓を持たない文化には宗教が強く影響した
  9. 散骨が普通だった地域
  10. 共同墓的な納骨室がある地域
  11. 浄土真宗には必ずしも由来しない?無墓制
  12. 納骨場の多くは新しい時代に作られた
  13. 与論島にもあった無墓制
  14. 洗骨・改葬の習俗と関連するタイプの無墓制
  15. おわりに

はじめに

日本で一般的なお墓といえば、多くの方がイメージするのは、いわゆる「先祖代々の墓」やそれに近いお墓でしょう。
しかし実は、このタイプのお墓は一般的なイメージとは異なり、比較的新しい時代に誕生・普及したお墓の様式です。

お墓参りの習慣が「無い」時代

中世の半ば頃になるまで、日本では庶民層だけでなく、例え上流層の人々であってもいわゆる「お墓参り」「お墓を守る」という概念は、極めて非一般的なものでした。しかし、このことは、当時の彼らが故人をないがしろにしていたということを意味はしません。

この時代、死者の魂はお墓や遺体(遺骨)には宿らず、すぐに死後の世界に渡る(少なくとも、ずっと宿るものではない)と信じられていました。
そして様々な史料を見ると、当時のお墓はいわゆる土饅頭タイプであり、要人のお墓であっても石の墓標を建てるケースは、極めてまれなものでした。

お墓以外の場所で死者供養が行われた

そうしたこともあり、例えば平安時代の半ば頃まで、天皇や貴族といった当時の最高権力者といえど、彼らのお墓はそのお墓の主が亡くなって埋葬されてからは、基本的に滅多なことではお墓参りされなかったそうです。

では当時の要人たちは、どのように死者供養を行なったかというと、故人が住んでいた(そして喪主の自宅でもある)邸宅や、一族の氏寺(現代風にいうと菩提寺)で開催したわけです。
藤原家の摂関政治の最盛期を築いた藤原道長の子息頼通が、宇治にある藤原家の別荘を寺院(平等院鳳凰堂)に改めたのには、藤原家の死者供養の拠点を作る意味合いもあったわけです。

鎌倉時代以降、年末のお墓参りが始まった

少し時代が下って鎌倉時代に入ると、年末にこの世に戻ってきた死者の魂(当時は、年末に死者の魂が一時的にこの世に戻ってくると信じられていました)が、一時的にお墓に滞在するという信仰が誕生しました。
それを受けて、上流層の人々の間で年末にお墓参りをするしきたりが生まれました(なお主に四国地方では、戦前までは「仏の正月」「骨正月」などの呼び名で、その年に死者の出た家の人々が年末にお墓参りをする風習があったそうですが、これはこの鎌倉時代の頃の、年末のお墓参りにルーツがある可能性も否定できません)。

この頃から、支配者層の人々のお墓にはいわゆる墓石(当時は「五輪塔タイプ」のものが流行しました)が建てられることが、多くなってきました。

庶民にも墓石・お墓参りが普及した近世

そして中世末期〜近世初期には、社会が安定に向かい、且つ庶民も経済的な力を付けてきたこともあり、庶民層でも墓石を建てたりお墓参りをしたりするチャンスが増えました。いわゆる和型墓石の原型も、この時期に確立し、庶民たちの間にも普及し始めています。

「先祖代々の墓」は近世後期以降に誕生した

ところでこの時期の庶民の墓石を見ると、一つの墓石に一人の名前(戒名)が刻まれているタイプが多く、苗字を持つ人々(前近代の庶民は苗字を持てなかったというイメージがありますが、庶民層の間でも身分差などがあり、実際には苗字を持つ人々もいました)のお墓であっても、「○○家の墓」のような墓碑銘はほぼありませんでした。

江戸時代も半ばから後期になってきますと、一組の夫婦の名が一つの墓石に刻まれているケースがみられるようになります。現代型のいわゆる「○○家代々の墓」が登場したのは、それよりも後の時代のことでした。

お墓そのものを持たない文化もあった

日本のお墓が現代に一般的なタイプのものになるまでの大まかな歴史は、このようなものですが、これはあくまで京都や鎌倉・江戸など、その時々の歴史の中で日本の中央政府というべき政権の本拠地であった都市や、それらの都市の近郊でのお墓の歴史でした。その他の様々な地域では、先程述べたような歴史には必ずしも当てはまらない「お墓」も、作られていました。

更にいえば、「お墓」そのものを敢えて作らないという地域も、日本列島には近現代に至るまで存在していましたし、その中の一部の地域の人々は今もその習俗を守っています。

お墓を持たない文化には宗教が強く影響した

特に浄土真宗(古くは「一向宗」「門徒宗」と呼ばれました)では、日本仏教の中でも他の宗派に比べ、火葬に積極的な傾向が強く(実は歴史的にみれば、日本も含めて東アジアの仏教は常に火葬に肯定的だったわけではありませんが、今回の記事では、そのことについては深くは取り上げません)、且つ現代日本に比べ故人の遺体(遺骨)やお墓へのこだわりが少ない傾向のあった前近代日本の人々の中でも、往時の浄土真宗信者は遺体・お墓へのこだわりがより少ない傾向にありました。

そのため、浄土真宗が前近代から盛んであった地域の中には、お墓自体をそもそも持たない(そして作らない)「無墓制」が一般的だった地域も、幾つかあります。

散骨が普通だった地域

例えば、鳥取県湯梨浜町浅津地区では、近年でこそお墓を作る人々が細々とではありますが現れているものの、21世紀初頭の現在でも、お墓そのものがほとんどない地域です。
この地域では、昭和40年代頃までは死者が出ると遺体を野焼き式の火葬場で火葬し、遺骨の一部のみを遺族が持ち帰った後は、残りの遺骨は近くの小川に散骨するのが、一般的な葬法だったそうです。

共同墓的な納骨室がある地域

同じ鳥取県の青谷町の山根・河原両地区でも、矢張り無墓制の文化があります。この地域でも、ほとんどの住民が浄土真宗の願正寺の檀家になっています。
そして今でも檀家の人々の間では、死者の遺体を火葬場で火葬し、遺骨を骨壺に納めて持ち帰った後、遺骨だけを願正寺の地下の納骨室に投げ込む(そして内部の遺骨は誰のものなのかわからなくなり、遺族もそれを気にしない)葬法が行われているそうです。

ただ第2次大戦の際戦死した出征兵士だけは、国から墓石費用が出たというのもあり、わずかにお墓が建てられています。

浄土真宗には必ずしも由来しない?無墓制

他にも、石川県や福井県、岐阜県や長野県の一部にこの種の葬法が行われている(いた)地域があり、そうした地域は浄土真宗の檀家が多いという共通点があります。
但し、浄土真宗信者でない人々もお墓を建てない習俗を共有している(いた)地域も多く、無墓制は浄土真宗信仰に由来するとは一概にはいえないということも、補足しておきます。

納骨場の多くは新しい時代に作られた

またこれらの地域の中には、鳥取県青谷町の山根・河原両地区での願正寺の納骨室のような、遺骨を納める場所を持つ地域も少なくありませんが、そうした納骨場が作られた時期の多くは、江戸時代末期〜大正時代初期であり、中には戦後どころか昭和40年近くになって作られたケースもあります。
それ以前の時代に遺骨を投げ込む場所は、単なる野ざらしの遺骨捨て場であったという地域も、複数あります。

願正寺納骨室がいつ頃作られたのかは、現時点では筆者にはわかりかねますが、他の無墓制文化の伝わる地域の例から推すと、近代に入ってから作られた可能性も決して低くなさそうです。

与論島にもあった無墓制

こうした無墓制というべき葬法は、鹿児島の与論島の南部でも行われていました。もっとも、与論島は前近代には「日本」でなかった沖縄文化圏に属しており、先述した浄土真宗の盛んな地域での無墓制とは異なる民俗的・信仰的背景があります。

洗骨・改葬の習俗と関連するタイプの無墓制

沖縄文化圏といえば、伝統的葬法として死者を火葬せず、石を組んで作られたお墓の内部に納め、遺体が白骨化した頃、当該の死者の遺骨を拾って洗い清め、改めてお墓に納める、いわゆる「洗骨・改葬」が行われたことでも有名です。
そして与論島の南部にあった無墓制は、この洗骨・改葬の習俗のバリエーションの一つだといえます。

具体的にいうと、死者が出ると遺体を一度お墓に埋葬し、一般にその死者の三十三回忌の時に白骨化した遺体の頭蓋骨のみを「ギシ(ヂシとも)」と呼ばれる共同墓に移し、他の部分の遺骨は共同墓近くの遺骨捨て場に投げ込むしきたりですが、これは1930年頃まで行われていた葬法でした。

そして更にいえば、この与論島南部で近代まで行われていたしきたりとよく似た、最終的には個人や家のお墓は持たない葬法が、沖縄本島の今帰仁村でも20世紀初頭まで行われていた可能性があります。

おわりに

お墓

いかがでしたか。
例え今では同じ日本国内であっても、埋葬・死者供養文化、更には冠婚葬祭全般のしきたりは、地方や宗教宗派などにより大きく異なることが多々あるものです。

参考文献

岩田重則『「お墓」の誕生 死者祭祀の民俗誌』岩波新書、2006
筒井功『「青」の民俗学 地名と葬制』河出書房新社、2015
森謙二『墓と葬送の社会史』吉川弘文館、2014
酒井正子『奄美・沖縄哭きうたの民族誌』小学館、2005
柿田睦夫『悩み解決! これからの「お墓」選び』新日本出版社、2013
柳田国男『葬送習俗事典 葬儀の民俗学手帳』河出書房新社、2014
勝田至編『日本葬制史』吉川弘文館、2012

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