日本で流布する一般的なイメージとは異なる、キリスト教式の墓

日本では、キリスト教が余り一般的な宗教とは言いがたいこともあり、キリスト教式の墓に関しては、「死後の復活を信じるため、火葬どころか遺体の腐敗も忌避すべきこととされる」というイメージがまだあります。しかしそれは、様々なタイプのキリスト教式の墓の一つに過ぎません。

目次

  1. はじめに
  2. 日本で一般的なキリスト教式の墓イメージ
  3. 実際にはキリスト教式の墓にも様々ある
  4. 遺体腐敗を再現した像が「墓石」
  5. この世の肉体≠天国での肉体という信仰
  6. 近代以降のプロテスタント諸派
  7. 実は散骨専用墓地のあるイギリス
  8. 「キリスト教文化圏」でない地域の例
  9. 太平天国の乱での棺使用禁止令
  10. 矢張り棺使用禁止令はキリスト教に由来した
  11. おわりに
  12. 終活の専門家に相談してみよう

はじめに

お墓

こちらをお読みになる方の中にも、キリスト教信者の方や信者志願者の方、あるいは信者志願者とまではいかなくてもいわゆる「一般的な日本人」以上に、キリスト教の信仰や文化に強いご関心をお持ちの方、ご家族やご親戚・ご友人にキリスト教信者の方がおいでの方は、きっといらっしゃることでしょう。今回は、様々な時代や地域のキリスト教様式の、あるいはキリスト教に思想的影響を受けた人々の墓について、書いていこうと思います。

日本で一般的なキリスト教式の墓イメージ

ところで、キリスト教受容の歴史が比較的浅く(更には死罪によって禁じられていた時代があり)、且つキリスト教信者の方がまだまだ「マイノリティ」とされる傾向にある現在の日本では、「キリスト教様式の墓」に関して、特に遺体をどのように埋葬するかについては、次に挙げるようなイメージが一般に流布しているのではないでしょうか。

●キリスト教では「死後の肉体の復活」が信じられているので、火葬して肉体を失わせてしまうことは、復活すべき肉体を失わせてしまうためタブーとされる。
●墓に埋葬された遺体が腐敗し白骨化するのも、肉体の復活を困難にするためできれば避けたいものとされる。そのため、湿度の低い気候のヨーロッパで根付いたのも道理であるし、遺体の防腐処置に様々な工夫が凝らされてきた。
●ましてや墓を建てず散骨するなど、もってのほか。


こうしたイメージが、キリスト教に余り接点のない方に強いように、筆者には思われます。そして更にいえば、日本でキリスト教が一般化しにくいのは、一つには、現代日本では火葬が一般的なので火葬をタブーとするキリスト教とは相容れないからだ、という説も大真面目に論じられています。

実際にはキリスト教式の墓にも様々ある

しかしながら、様々な歴史を見ていくと、実際には先述のようなイメージは、「キリスト教様式の墓」の中でも一部の時代や地域のものであり、また宗派によっても、大きく異なっていたというのが、実態のようです。

遺体腐敗を再現した像が「墓石」

まずキリスト教、特にカトリックが強大な権威・権力であった中世〜ルネサンス・バロック期の西洋諸国の、君主を始めとする支配者層の人々の墓には、日本でイメージされがちな「遺体の腐敗も忌避する、“本場”のキリスト教の墓」のイメージを覆すようなタイプの墓が目立ちます。
その墓とは、「トランジ」と呼ばれる故人の像がある墓です。このトランジは、墓の主の遺体が腐敗した(あるいは腐敗が始まる)様子を、あくまでイメージとしてではありますが表現した像です。
こうしたトランジ像のある要人の墓には、基本的に生きていた時(そしてしばしばそれなりに「若い」頃)の彼らの姿を再現した像もあり、「限りあるものであり、朽ち果てていく運命にあるこの世の肉体」を表現したトランジ像に対し、「復活によって新しく獲得され、永遠の命を得る死後の肉体」を表現しているとされます。

この世の肉体≠天国での肉体という信仰

なぜ、当時の要人たちがしばしば、そうした朽ち果てていく自分の肉体を敢えてさらけ出したトランジ像を作らせたのかということについては、幾つか説があるようです。ただ、当時のカトリックの中にも、「死後復活して永遠の命を得る肉体」は、「その死者本人の生前の肉体それ自体」とイコールであるとは限らない、という信仰も確かに存在したということは、確かなようです。

近代以降のプロテスタント諸派

そして19世紀以降のプロテスタント諸派の場合は、「本人の生前の肉体そのものが、そのまま死後に復活するものとは限らない」とする信仰が、より強いものとなっています。
その理由は幾つかありますが、そうした中でもプロテスタント諸派では、宗派や時代や地域などによって差があるため一概にはいえないものの、「死者の魂は死後すぐに生前の肉体を離れて天国に入り、そこで新しい永遠の肉体を得るため、遺体は既に魂が抜け出して天国に到達した後の“抜け殻”である」という信仰が強い傾向にあることは、重要な理由の一つだといえるでしょう。

実は散骨専用墓地のあるイギリス

実際、プロテスタント諸派が多い国や地域では、近現代に入ってからは、カトリックや正教会の多い国や地域に比べると、火葬に対する忌避の念が薄く、更には墓を作らず散骨することにも、否定的でないケースがあります。
例えばプロテスタント系の宗派の一つである聖公会(いわゆる英国国教会)の信者が多いイギリスは、世界火葬協会の本部が置かれるほど火葬が多く、やや古いデータではありますが、1996年には火葬率が71%でした。更に興味深いことには、散骨専用の墓地を併設した火葬場もあるほどです。

「キリスト教文化圏」でない地域の例

そして、中国や日本などのようにいわゆる「キリスト教文化圏」でないとされる地域でも、キリスト教、特にプロテスタント諸派の信者や聖職者となったり、正規信者にならなくとも好意的に理解していた(いる)人々は、時としてその地域での「一般的な(とされる)人々」よりも、故人の遺体(遺骨)や墓への執着の念が薄いことがあります。だからといって、彼らは故人を慕う気持ちや敬意に欠けるとか、そういうことではありません。

太平天国の乱での棺使用禁止令

例えば清朝時代の終わり頃、19世紀半ばの中国南部で起こった武装蜂起「太平天国の乱」での反乱軍(以下、「太平天国」)のルールの一つに、「死者は出自・身分や男女・年齢を問わず、全て棺を使わずに葬る」というものがあったということは、この「プロテスタント諸派信者や影響を受けた人々は、時と場合によっては、例え死者が自分にとって大切な人であっても、更には自分自身が死に臨む場合も、遺体や墓に対して極めて唯物論的な見方をすることもある」ということを、端的に伝えるケースであるといえます。
太平天国の乱の反乱軍総大将であった在野知識人の洪秀全を始め、太平天国のリーダー層の人々はプロテスタント系キリスト教に影響を受け(洪秀全のいとこで太平天国の要人の一人であった洪仁玕は、実際に正式に洗礼を受けてもいました)、一種の平等思想を掲げたこともあり、被抑圧層の人々を多く味方に付けました。

矢張り棺使用禁止令はキリスト教に由来した

この「棺使用禁止令」ともいうべきルールが定められた理由は幾つかあり、その中には太平天国の掲げた平等思想の由来である教え「神の前での平等」を実践するためという側面もありました(実際、1864年に清朝軍により太平天国が滅ぼされる直前に総大将の洪秀全が変死した際も、彼の遺体は棺を使わず埋葬されました)。しかし矢張り、「死者は死後すぐに天国に昇って新しい永遠の肉体を得るため、生前の肉体である遺体はもはや“抜け殻”である」という信仰が、この「棺使用禁止令」の重要な背景としてあることは、無視できない点です。

おわりに

お墓

いかがでしたか。
キリスト教式の墓についてもそうですが、今の日本で必ずしも一般的でない物事に対しては、しばしば固定観念だけで理解してしまうことがあります。しかし、少し好奇心を持ってそれらの物事を見てみると、そうした固定観念が、時には覆り、世界がまた少し広くなることもあるでしょう。

参考文献

岡田温司『デスマスク』岩波新書、2011
横田睦『お骨のゆくえ 火葬大国ニッポンの技術』平凡社新書、2000
ジョナサン・D・スペンス、佐藤公彦訳『神の子洪秀全 その太平天国の建設と滅亡』慶應義塾大学出版会、2011

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