源氏物語に登場する物の怪。第九帖『葵』のあらすじ

源氏物語の第九帖『葵』は有名な場面が目白押しです。その中でもっとも人々を引きつけるのが、六条の御息所の物の怪でしょう。その他にも葵の上の出産、光源氏と紫の君との結婚と物語は続いていきます。今も昔も読む者を夢中にさせる源氏物語の『葵』の帖を見てみましょう。

目次

  1. 源氏物語の『葵』とは
  2. 源氏物語第九帖『葵』の主な登場人物
  3. 『葵』の印象的な場面を現代語訳にしよう!
  4. 源氏物語第九帖『葵』に関わる伝統行事
  5. 『葵』第三章で、紫の君と夫婦になる
  6. 源氏物語第九帖『葵』のまとめ

源氏物語の『葵』とは

『源氏物語』の54帖の中でも『葵』は、もっとも有名なエピソードが納められた巻だと言ってもいいでしょう。
この『葵』を題材とした能や舞台が何度も上演されてきました。
この巻の登場人物で注目すべきは、六条の御息所という女性です。
この六条の御息所がいたことで、物語に幅でき、『源氏物語』をただ煌びやかなばかりの王朝物語とは違う、深みのある物語にしています。
そこには人としての、あるいは女性としての「闇」の部分が描かれています。
華やか、かつ幸せな光景の向こうに垣間見える憎悪と嫉妬。
それを『源氏物語』の作者 紫式部は『六条の御息所』という女性を通して見事に描き切りました。

それでは、その「闇」とは、どのようなものだったのでしょうか。

源氏物語第九帖『葵』の主な登場人物

光源氏

『葵』の中での光源氏は、どっちつかずの男性という印象を拭えません。
結婚以来長く冷戦状態であった葵の上とも、ようやく雪解けを迎えています。
一方では、元東宮妃の六条の御息所への気持ちは冷め始めており、かと言って、美しく教養深い、その上血筋の良い彼女を忘れがたく思っています。
二条の院の紫の君はいよいよ年ごろとなり、手元で育て上げただけに、自分の理想通りの素晴らしい女性に育っています。
そんな折に起こった、葵の上と六条の御息所の乗った車同士の場所取り争い。
これをきっかけに、今まで辛うじて均衡を保っていた女性たちの間のバランスが崩れてしまいます。
そして『源氏物語』の前半部で、一番の悲劇と言ってよい事態を引き起こしてしまうのです。

葵の上

光源氏に対し頑なに閉ざされていた心がやっと開かれていく。これで夫婦ともに心通わせ幸せになれる。
そんな矢先の出来事でした。
車争いが起こり、妊婦であった葵上はそのまま病の床に。
人々は六条の御息所の生霊か。御息所の父の生霊かと噂し合います。
加持祈祷を行っても葵の上の病状は一向に良くなりません。
六条の御息所の生霊に憑かれたまま男児を産み、その後帰らぬ人となりました。

六条の御息所

光源氏への嫉妬のあまり憔悴し、ついには生霊を葵の上の元に飛ばしてしまいます。
元東宮妃で血筋も良く、教養高い彼女は、数多の人から敬愛され、プライドの高い女性です。
その御息所にとって、年下の光源氏の心が離れていくことは耐えられない屈辱だったのでしょう。
こうして、御息所は生霊を葵の上の元に飛ばしてしまうのでした。
なお、夕顔という女性も御息所の生霊のせいでなくなったと言われますが、夕顔を死なせたのは御息所の生霊ではないという説もあり確定されていません。

紫の君

物語の一服の清涼剤のような、そんな存在の紫の君です。
北山で出会い、連れて来られてから数年。
素晴らしい女性へと成長を遂げた彼女は、この『葵』の帖で、ついに光源氏の妻となりました。

『葵』の印象的な場面を現代語訳にしよう!

<原文>

「いで、あらずや。身の上のいと苦しきを、しばしやすめたまへと聞こえむとてなむ。かく参り来むともさらに思はぬを、もの思ふ人の魂は、げにあくがるるものになむありける」
と、なつかしげに言ひて、
「嘆きわび空に乱るるわが魂を
  結びとどめよしたがへのつま」
とのたまふ声、けはひ、その人にもあらず、変はりたまへり。「いとあやし」と思しめぐらすに、ただ、かの御息所なりけり。あさましう、人のとかく言ふを、よからぬ者どもの言ひ出づることも、聞きにくく思して、のたまひ消つを、目に見す見す、「世には、かかることこそはありけれ」と、疎ましうなりぬ。「あな、心憂」と思されて、
「かくのたまへど、誰とこそ知らね。たしかにのたまへ」
とのたまへば、ただそれなる御ありさまに、あさましとは世の常なり。人々近う参るも、かたはらいたう思さる。

<現代語訳>(意訳)

「いいえ。そうではありません。苦しくてならないので、どうぞ法力を休めてくださいな。こうして参るつもりはありませんのに、物思いの深い人の魂というものは本当に抜け出るものなのですね」
と、懐かしそうに慕わしげに言うと、
「嘆きわび空に乱るるわが魂を
  結びとどめよしたがえのつま」
という声も、様子も、葵の上のそれではなかった。「とても怪しい」と考えをめぐらせると、葵の上はすっかり六条の御息所になっていた。口さがなく人々が噂をしていても、くだらない人たちの言うことだと気にも留めなかったが、こうして目の前でそのようなことが起きると「本当に、世の中にはこのようなことがあるのか。嫌なものだ」と思わずにはいられなかった。
「そのようにおっしゃっても、私にはあなたがどなたか分からぬ。はっきりと名乗りなさい」
とおっしゃると、ますます御息所そのままであった。ありえないことに悪寒が止まらない。
女房達が側近くに来るのも、このことがばれやしないか気が気ではなかった。

源氏物語第九帖『葵』に関わる伝統行事

葵祭

源氏物語『葵』の帖には「斎宮」と呼ばれる女性が登場します。
それが六条の御息所の娘の斎宮です。
この斎宮が賀茂祭の禊のために加茂川の河原に赴く日。
有名な車争いは、この行列を見学をするための場所取りの末に起こった事件でした。
現在は「葵祭」として、『源氏物語』の頃を偲ばせる儀式が受け継がれています。

『葵』第三章で、紫の君と夫婦になる

『葵』第三章で、光源氏はついに紫の君を妻にします。
葵の上が亡くなり、悲しみに沈む左大臣邸を辞して帰宅し、その足で紫の君の住まう西の対を訪れます。
そして一夜を共にし……。
(こうして寝所を共にすることはよくあったけれど、昨夜の源氏の君の様子はあまりに違った)と、紫の君はすっかり拗ねてしまいます。
ここまでの流れを見ると、光源氏はやはり女の敵だと思わないでもないですね。
でも結局紫の君を光源氏に恋している自分に気づき、二人はお互いを最愛のものとして寄り添うことになるのでした。

亥の子餅

光源氏と紫の上が一夜を共にした朝、その日は亥の日で、二人は亥の子餅をいただきます。
これは旧暦の10月の亥の日亥の時にいただく、猪を模した和菓子です。
現在でも茶道の炉開きに出されたり、旧暦10月の亥の日近くになると和菓子店で販売されています。

源氏物語第九帖『葵』のまとめ

いかがでしたでしょうか?
あらゆる人間関係のある現代に生きる私たちでさえ、この源氏物語の『葵』の帖を読む際にはわくわくしてしまいます。
往時、紫式部の紡いだ言葉そのものを読むことのできた宮中の人たちは、どんなにか高揚した気持ちで文字を追ったことでしょう。
悲しくも美しい人間ドラマ。
それが源氏物語第九帖『葵』の魅力なのではないでしょうか。

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