刀は戦国武将が集めるもののひとつ
戦国武将の収集癖というのはなかなかにすさまじいもので、有名なところでは茶器や舶来品、兜などがあげられます。
刀もそのコレクター愛用品の一種であり、織田信長や室町将軍の足利義輝など、多くの武将が集めて回り、それらを家宝としていました。
本記事で主役となる上杉謙信も大の刀好きの一人であり、反りや長さ等、好みの形状がはっきりしていたとさえ言われています。
さて、そんな刀にゾッコンの上杉謙信ですが、いったいどんな刀を持っていたのでしょうか?
上杉謙信の愛刀といえばこれ!姫鶴一文字!
この刀は上杉謙信が特に愛用したと言われており、多くの戦場に帯刀して行ったと言われています。さらには謙信の跡を継いだ上杉景勝も、同じくこの刀を愛用しています。
刀身は71.5センチと比較的長く、非常に美しい刀と昨今でも話題の一振りです。
また、鍔の無い独特の形状をしており、この形は「上杉拵」と呼ばれているそうです。
現在でも重要文化財認定されています。ちなみに米沢市はこの刀を八千万円で買い取り、現在では米沢市の上杉博物館でたびたび展示品とされています。
この名がついたのは上杉謙信の時代?
さて、この刀を語る上で、非常に面白い逸話が残っているので、そちらも紹介します。
この刀は日本刀の中でも太刀と呼ばれる部類に入っており、刀身が長く、戦場で振り回すには少し長かったようです。
そこで上杉謙信は、刀身を短くするよう磨上げを研ぎ師に頼みました。するとその研ぎ師の夢に、美しい姫君が現れるではありませんか。彼女が言うには、「磨上げをやめてほしい」とのこと。さらには翌日にも同じ姫が現れたので名を聞くと、彼女は鶴というのだそうです。
結局研ぎ師は磨り上げを取りやめて謙信に刀を返し、後にこの話を元に「姫鶴一文字」と号したと言われています。
また異説として、同じ流派の刀に「山鳥毛一文字」というものがあり、姫鶴一文字はそちらと比べて一回り小さく、また温和な紋様をしているからそう呼ばれたというものもあります。
さらに余談ですが、現在の刀身は天正16(1588)年に採られた押形(刀の拓)よりも二センチほど小さくなっているそうで、どこかで結局磨上げられたようです。
明治天皇も心酔?
明治天皇が上杉家に立ち寄り休憩をしていた時、この刀をいたく気に入ったという話も残っています。上杉家には他の刀も色々と保管されていましたが、その中でもこの姫鶴一文字が特にお気に入りだったらしく、翌日の予定を急遽キャンセルした上、押形を持ち帰ったのだとか。
上杉謙信もう一振りの愛刀・謙信景光
名前からしてわかる通り、謙信の愛刀のひとつにして、姫鶴一文字と同じく常に近くに置いていた一振りです。
先ほどの姫鶴一文字とは違い、こちらは刀身28.3センチの短刀であり、表には「秩父大菩薩」、裏には「大威徳明王」の文字が刻まれています。
刃の模様は片落ち互と呼ばれるのこぎり状の形をしており、これはこの刀を作った流派が得意としていたものだと言われています。
刀の名産地・岡山
この刀は備前・今でいう岡山県で作られたものだとされています。特に長船は今でも刀剣の博物館が設置されるほどに多くの刀を生み出しており、有名どころだと、佐々木小次郎の「物干し竿」もここで作られた流派の物であるとされています。
その他にも刀がいっぱい!
当然、上杉謙信の所有していた刀はこれだけではありません。実は現在発覚しているものだけでも、20振り以上の刀剣を収集していたというのですから、驚きです。
ではその中から、いくらか紹介していきましょう。
伝説の一振り?小豆長光
この刀のモデルは、上杉謙信の陣太刀だと言われています。全長103センチの大きな刀だったと言われています。
この刀の由来は、小豆袋がきれいに真っ二つにされたことから。
ちなみに川中島の戦いでは上杉謙信が武田信玄と一騎打ちをしたという伝説がなお語られていますが、そのときに使用したのがこの小豆長光なのだとか。
上杉の家宝・山鳥毛一文字
もともと上杉という苗字は関東管領の苗字なのですが、その関東管領の役職を彼らから引き継ぐときに、上杉という苗字を名乗ったと言われています。
この刀はまだ上杉姓を名乗る前から、関東上杉家の関係者から贈られてきた一振りです。
先ほどちょろっと申し上げましたが、この刀は刀身79センチと非常に大きいのが特徴。
また刀文が鳥の羽毛のように見えるので、この事から鳥山毛一文字と号したと言われています。
短刀なのに虎退治?五虎退
こちらは上洛した際、同じく刀コレクターである13代室町将軍・足利義輝から拝領したものです。
御覧の通りの短刀で、刀身は25センチほどです。
この刀がこう呼ばれる由来は足利義満の時代。明に派遣された使者が荒野で五頭の虎に襲われ、なんとこの刀ですべて撃退したという逸話からだとか。当時の使者、恐るべし……。
さすがは刀コレクター

いかがだったでしょうか? 戦国時代に数多く存在していた刀マニアの一人、上杉謙信。彼も日本刀の切れ味やその造詣の美しさに魅了された一人だったのでしょう。
しかし、謙信の所有品だけでも、まだまだここで紹介していない刀は大量にあります。
人物だけでなく、こう言った道具や武具などに注目してみると、何か面白い発見があるかもしれませんね。